家庭菜園をやるために田舎に移住した──。 「毎朝、土をいじり、収穫した野菜で朝ごはんを作る」そんな暮らしを想像していました。
しかし、実際にはそううまくはいきませんでした。
この記事では、獣害に悩まされた移住後数年間の記録と、防除柵を設置してから改善されたプロセスを、できるだけ実践的に紹介します。
都会と田舎の家庭菜園の違い
移住前は都市部で貸農園を借りて、週末だけ家庭菜園をしていました。区画は整備されており、土づくりも済んでいて、苗を植えて水をやるだけという環境です。
一方、移住先の庭は芝生が一面に広がっており、まず芝を剥がすところからのスタートでした。鍬を使って土を起こし、粘土質だった地面をスコップで少しずつほぐす作業は、予想以上に時間と体力を使いました。
最初の畝はレイズドベッド式にし、通路にはウッドチップを敷きました。整備には手間がかかりましたが、「ようやく自分の土地で畑が持てた」と実感できた瞬間でもありました。
仕事の合間に水やりをし、貸農園ではなく「自分の土地」で、野菜の新しい葉が開いたり茎が伸びたりする様子を見るのが、本当に嬉しかったのを覚えています。




鹿と猿による被害の実態
しかし、最初に植えた野菜の苗は、一晩で消えました。
畑の様子を見に行くと、苗の茎だけが残り、踏み荒らされた痕跡がありました。地域の方によると、このあたりでは鹿と猿による獣害が頻繁に発生しているとのこと。実際、自宅の裏手を猿が歩いていたり、鹿の群れを見かけることはよくあります。


また、この家は中古物件で、内見時に前の家主から「ガーデニングをしても鹿に食べられてしまう」という話は聞いていました。 でも、その方は別荘としての利用だったため、「定住すれば人の気配で動物も遠ざかるだろう」と、どこか気楽に考えていたのです。
しかし見事にやられました。
- 鹿の被害:主に若い苗や葉物野菜が狙われやすく、柔らかい新芽はほぼ確実に食べられます。特に葉が広いナスやホウレンソウは早期に被害を受けやすい傾向があります。
- 猿の被害:収穫直前の豆類やイモ類を好み、食べごろを狙って持っていきます。特に枝豆やジャガイモは要注意です。
私の場合も、育ってきた枝豆を翌朝すべて抜かれていたり、ジャガイモを株ごと持ち去られたことがありました。猿は非常に賢く、警戒心も強いため、気づいたときには手遅れというケースが多いです。

やっと育った野菜を目の前で奪われる無力感。 「家庭菜園ってこんなに難しいのか…」 と、田舎暮らしの現実を突きつけられた出来事でした。
獣害で心が折れかけた時期
それでもなんとか少しずつ野菜の苗を植え、その一部は生き残り、野菜が育っていく過程を楽しみにしていましたが、芽吹きの直後や収穫直前など、いい時を狙ったかのように被害が起こります。連続する被害により次第に意欲が薄れていきました。
鹿や猿に狙われない作物に限定して育てたりもしましたが、選択肢が減り、思うような野菜が育てられないことがストレスになっていきました。
それなら、と試しに花を植えてみたものの、それすら食べられてしまう始末で、畑は次第に雑草に覆われていきました。
家庭菜園は、田舎暮らしの中心に据えていた活動でした。
それが機能しなくなると、生活全体のモチベーションも下がっていき、「この移住が本当に正解だったのか」と考える日が増えていきました。
防除柵の導入で状況が改善
「このままでは終われない」と思い直し、獣害対策について本格的に調べ始めました。
検索で出てくる情報だけでは不十分だったため、地元の人やホームセンターの担当者、YouTubeなどを活用しながら方法を探りました。
最初に試したのは、市販の防獣ネットと支柱を使った簡易的な囲いです。高さ約1.2m、地面にはプラ杭を打って固定しました。
ところが、杭が細く安定せず、風で倒れたり鹿の体当たりでネットが緩んだりすることが何度も起きました。
また、畑だけを囲ったことで庭とのつながりが断たれ、景観面でも違和感が残りました。

最終的には、敷地全体を囲うことを決断。
公共杭と呼ばれるしっかりした木杭を等間隔で打ち込み、ワイヤーメッシュを張り巡らせて柵を設置しました。作業には時間と労力がかかりましたが、構造としてはかなり頑丈なものになりました。




防除柵の効果と課題
この柵を設置してから、明らかに被害は減りました。
足跡の数が減り、苗が食べられることも激減。鹿への対策としては一定の効果があったと感じています。(まだ完全に安心はできませんが…汗)
ただし、まだ課題は残ります。この柵で鹿は撃退できましたが、猿はこのぐらいの柵は簡単に乗り越えてしまいます。これをどうするか、まだまだ先は長そうです。
※追記:この不安は的中します。設置後10日もしないうちに猿被害にあいました…涙

しかし今回自分で柵を作ったことで、「自然と戦う」というよりも、「自然と付き合う」感覚が芽生えた気がします。田舎での暮らしは、思っていたより手間がかかることばかりですが、だからこそ、自分で動いて、工夫して、乗り越えることで暮らしが深まっていくのだと感じました。

まとめ:獣害対策には継続的な工夫が必要
田舎で家庭菜園を始める際には、獣害対策は最初から視野に入れておくべき課題です。
「畑を作る」ことと同じくらい、「どう守るか」をセットで考えることが重要です。私のように「人が住めば動物は避けるだろう」と考えていた方ほど、最初に苦労するかもしれません。
ですが、諦めずに一歩ずつ対策を重ねていけば、少しずつ状況は変わります。防除柵の導入によって、今はまた畑づくりを再開できています。
完全に安心とはいえませんが、「やれば変わる」という実感を得られたことは大きな収穫でした。これからも頑張ります!